風環境解析
風環境ランク評価手法について
建物建設の前後で周辺の風環境がどのように変化するかについては、
客観的かつ合理的な評価手法が必要となるが、風速増加の許容範囲の線引きが困難であることや、
風速の増減が必ずしも風速の強弱を表していないことから、風速の確率的な表現による評価を用いることが多い。
確率的な表現とは、例えば「今まで強風が週1回程度観測されていたが、
建物建設によって週2~3回に増えた」というような表現である。
上記のように、ある風速に対して観測される度合いを風速出現頻度という。
この風速出現頻度をもとに、超過頻度(ある風速を超える確率)と
累積頻度(ある風速以下になる確率)を算出すると、
風速と超過頻度はワイブル分布と呼ばれる確率密度関数に従うことが知られている。
ある風向での風速における
超過頻度及び
累積頻度は次の通りである。
:風配(観測期間における風向
の発生頻度)
:ワイブル係数(尺度定数)
:ワイブル係数(形状定数)
:ワイブル係数(尺度定数)
:ワイブル係数(形状定数)
上式によって算出された超過頻度及び累積頻度をもとに、
現在では主に風工学方式による評価手法と村上方式による評価手法が提案されている。
風工学方式では、地上5mでの日平均風速を対象として、
その風速の累積頻度55%(平均的な風速に相当)と
95%(週1回程度吹く比較的速い風速に相当)の風速によって風の状況をランク分けして評価する。
一方、村上方式では、地上1.5mでの日最大瞬間風速を対象として、
10m/sec、15m/sec、20m/secにおける超過頻度によってランク分けして評価する。
表1に風工学方式の評価基準、表2に村上方式の評価基準を示す。
領域区分 | 累積頻度 | ||
---|---|---|---|
55%の風速 | 95%の風速 | ||
A | 住宅地相当 比較的穏やかな風環境が必要な場所 |
≦1.2m/sec | ≦2.9m/sec |
B | 低中層市街地相当 一般的な風環境 |
≦1.8m/sec | ≦4.3m/sec |
C | 中高層市街地(オフィス街)相当 比較的強い風が吹いても我慢できる場所 |
≦2.3m/sec | ≦5.6m/sec |
D | 強風地域相当 好ましくない風環境 |
>2.3m/sec | >5.6m/sec |
ラ ン ク |
強風による 影響の程度 |
対応する 空間用途の例 |
評価する強風のレベルと 許容される超過頻度 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
日最大瞬間風速※1[m/sec] | ||||||
10※2 | 15※2 | 20※2 | ||||
日最大平均風速※1[m/sec] | ||||||
10/G.F.※3 | 15/G.F.※3 | 20/G.F.※3 | ||||
1 | 最も影響を受けやすい用途の場所 | 住宅地の商店街 | 野外レストラン | 10% (37日) |
0.90% (3日) |
0.08% (0.3日) |
2 | 影響を受けやすい用途の場所 | 住宅街 | 公園 | 22% (3.6日) |
3.60% (12日) |
0.60% (2日) |
3 | 比較的影響を受けにくい用途の場所 | 事務所街 | 35% (128日) |
7% (26日) |
1.50% (5日) | |
4 | ランク3の条件を満たさない領域 |
※1 日最大瞬間風速:評価時間2~3秒、日最大平均風速:10分間平均風速
※2 10m/sec:ゴミが舞い上がる。干し物が飛ぶ。
15m/sec:立て看板、自転車等が倒れる。歩行困難。
20m/sec:風に吹き飛ばされそうになる。
※3 G.F.:ガストファクター(突風率)
ガストファクターについて
村上方式の場合、評価対象が日最大瞬間風速なので、
ワイブル係数も日最大瞬間風速をもとに算出したものを用いなければならないが、
日最大瞬間風速の気象データがない場合は、
ガストファクター(平均風速と最大瞬間風速との比率)を用いて日最大平均風速に換算して評価対象としている。
表3に建物周辺の状況とガストファクターの対応を示す。
密集した市街地(乱れは強いが平均風速はそれほど高くない) | 2.5~3.0 |
通常の市街地 | 2.0~2.5 |
特に風速の大きい場所(高層ビル近傍の増速域など) | 1.5~2.0 |
表3に従ってガストファクターを決定する際、建物周辺の状況が表中のどこに該当するかの判断は容易ではなく、
また、採用するガストファクターの値にも幅があるため、評価者による主観的な結果になってしまうことが予想される。
そこで、より客観的なガストファクターの算出が必要となるが、代表的なものとして本郷氏・中山氏による方法がある。
この方法は、東京都区内の高層建物周辺で観測した風速をもとにガストファクターと風速との関係を比較検討し、
観測点における風速比から対応するガストファクターを算出できるようにしたものである。
観測点における風速比をとすると、ガストファクターは次の通りである。
:観測点における風速比
:観測点における地上高さ [m]の風速
基準高さ [[m]の風速
:観測点における地上高さ [m]の風速
基準高さ [[m]の風速
<参考文献>
新・ビル風の知識,風工学研究所,鹿島出版会(1989)
ビル風の基礎知識,風工学研究所,鹿島出版会(2005)
風環境(ビル風)評価の現状と課題,日本風工学会 風環境評価研究会(2005)
風環境評価用ガストファクターの提案,本郷剛・中山かほる,鹿島技術研究所年報51(2003)
ビル風の基礎知識,風工学研究所,鹿島出版会(2005)
風環境(ビル風)評価の現状と課題,日本風工学会 風環境評価研究会(2005)
風環境評価用ガストファクターの提案,本郷剛・中山かほる,鹿島技術研究所年報51(2003)